「最近、すぐに持ち物がいっぱいになるのじゃが、不要なものはちゃんと売り払っておろうな?」
 ニィトの問いに、皆が顔を見合わせる。
「姫様はそもそも荷物はお持ちになりませんし、私も最低限必要な物以外は手元には残してませんが」
 ヌーハートもうなずいて、ザックを持ち上げて見せる。
「回復薬のたぐい以外は、すべてお店で引き取っていただいてますわ」
「それにしては、やけに重そうじゃが……どれ、見せてみい」
 ニィトはヌーハートからザックを取り上げると、ベッドの上に中身をぶちまけた。
「……」
 絶句する一同に、ヌーハートは得意顔でひとつひとつ説明をはじめる。
「怪我をした時のために、パロの実が三つ。大怪我をしても大丈夫なようにパロメディスも三つ。強敵が現れたときのためのヒールエアロ。メイジの生命線とも言えるマナを補充するためのマナ水は四つ。万が一に備えてヒュプノ結晶。ヒーラーがいないわたくし達のパーティーでは必須のブラネル、パラエル、ポワゾル──」
「いや、それは良いのだが……」
「この木の実の山はなんじゃーっ!?」
 こんもりと積み上げられた木の実の山に、ニィトが頭を抱えて絶叫する。
「木の実は栄養価が高くて、滋養強壮にはもってこいなのよ?」
「……六十……四個……ある……」
 黙々と数えていたヤマが、ぼそりと呟いた。


「ニィト、お願いだからそろそろ新しい装備を買ってくれませんか」
 最後のスカイフィッシュを串刺しにして、セレーネがぼやいた。
「まだまだ行ける! うちとヌハの魔法で、雑魚などイチコロじゃ」
 パーティーの財布を握るニィトは、薄い胸をそらしてふんぞり返る。
「ええ、まあ。お二人の魔法は確かに強力ですが、そればかりに頼っているわけにも……」
「そうねえ。マナもそんなに続くわけでもありませんし」
 セレーネの言葉に、ヌーハートも同意を示す。
「うちはヒーリングマナで回復できるから、いくらでも続くぞ?」
「……真っ先にガス欠になってる」
 自信満々に言い切ったニィトに、ヤマが容赦なくツッコミを入れる。事実、先の戦闘でもマナバレットを連発し過ぎて残りのマナが不安だからと、最後は後ろに下がってマナの回復にいそしんでいた。
「帝竜デッドブラックとの戦いも近いし、武具は新調すべきかと。幸い、私達の集めた素材で新しい武器や防具の開発も進んでいるみたいですし」
「私の見たところ、防具はアイゼン式の物で良さそうですが、武器はミロスやカザンの方が優れているようでしたよ」
「ウィップ……飽きたの……」
 口々にまくしたてる面々に、ニィトが渋い顔をする。
「何もいま買わんでも、もうしばらくは大丈夫じゃろうに……」
「ミロスの時にもそう言って、アイゼンまで買い物を我慢したじゃないですか!」
 そういってセレーネが振り回したレイピアは、いつ折れてもおかしくないほどに使い込まれている。
「盾も持たずに前線にたつ騎士なんて、聞いた事もありませんよ」
 ボロボロの剣で器用に敵の攻撃を弾き返すセレーネは、戦闘巧者であるのは間違いないだろう。他の者にしても、武器も防具も新米ハンターとほとんど大差ないものでここまで戦い抜いてきている。雑魚を相手にも一瞬たりとも気を抜けない戦いを強いられ続けるのは、そろそろ限界だった。

「しょうがないから、全員分の武装を揃えておいてやったわ」
 ニィトは山ほど抱えた荷物を、部屋の床に積み上げた。
「これ……こんなに!?」
「セレーネの剣は、先日拾った将剣で良いじゃろ。そのかわりにラウンドシールドを買っておいてやったわ。あとは、うちとヌハのオークロッドにヤマの刑鞭、それに狩人の守りが二つじゃ」
「新しい鞭……ふふ……」
 早速、振るって感触を確かめているヤマ。その風を切る音は、今までの安物のウィップとは比べ物にならない。
「よくこれだけ買えましたねえ」
 ヌーハートも新しいロッドを古い物と取り替える。
「途中の竹林で拾ったフェザーブーツやら礼服やらのおかげで、防具にあまり金をかけずに済んだからの」
 翌日から、パーティーの通常戦力は三倍に跳ね上がった。


 というわけで、デッドブラック撃破。
 フロワロを踏み回っていたり、竹林を探索したり、第三皇妃の依頼を聞いたりしているうちに、いつのまにやら29レベルとかになっていた。その割りに相変わらず雑魚相手にも魔法を使わないと危険がピンチなので、思い切って装備を新調。竹林で色々と拾ったのと、フェザーブーツ三足ドロップしてくれたおかげで武器以外はほとんど買わずに済んだ。お金はあるんですけどね。5万以上も……。
 相変わらずスキルポイントを貯めまくりであり、すでに10ポイントも余っている。う〜ん……カウンター系でいいかなあ。